新しい香り『みずのうつわ』ができました。

アーティスト・櫻田純子さんからご依頼いただき、純子さんの個展に添える香りをお作りしました。
香りの制作について、すべてをお任せくださったので、構想やテーマを練るのではなく、インスピレーションに委ねて。湧き上がるままに創作しました。
どういう香りが生まれるのか、私自身も全く予想がつきませんでしたが、結果として、ぴったりな香りが出来上がりました。
創作の過程では思いがけない気づきもあり、自身の感覚をもう一段信じてみようと思えた体験になりました。
つたない言葉ではありますが、香りと、その制作のエピソードを綴ってみたいと思います。
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櫻田純子さん Instagramアカウント @junkosakurada_art 、@junkosakurada
(2025年櫻田純子さんの個展『Let out. Let in』にて、香りを置かせていただきました。)
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香りの旅の始まり
香りが生まれ出る流れは、毎回違っていて、同じものはひとつもない。
それがとても面白いと感じています。
今回は、最初にいくつかインスピレーションを受け取り、それに沿っていくつかの香りを試作しました。けれど、どうしても”これ”と思える香りにならず。この時点で、今回はこのやり方ではないんだなと気づきました。
そんなある日、地元の方が育てた季節の切り花を部屋にたっぷりと活けました。
ちょうどその日は梅雨入りで、活けられた花や葉から立ちのぼる、何とも言えない柔らかさ、みずみずしさに、心が潤ってきたのを感じました。
そういえば、10年前の梅雨の頃。京都・円山公園で咲いていたクチナシの花の香りに、心動かされたことを思い出しました。
甘さにも色々な種類がありますが、梅雨の時期は、水を感じさせる植物から立ちのぼる”特有の甘さ”があります。それをいつか形にしたいと思っていたのでした。
その時の鮮やかな感覚が蘇ってきて、今はその時の感覚に無理に近づけようとせず、自由に作ってみよう。
そう思って、香りのスケッチを始めました。
思い出した、円山公園で出会ったクチナシの花。
10年前にSNSに載せていたいたのが、前日偶然にアップされて、久々にこの時のクチナシに会えてうれしかった~
植物の中に感じられる、梅雨の雨、水の優しさ
ちょうどその頃、私は自分の内側にある『孤独感』について観察していて、そこに関わる感情を深く見つめていました。
深く見つめていくなかで、こんなことを思ったのです。
私たち人間は、進化の過程で、便利な道具や技術を手に入れた代わりに、もともと備わっている『サインを受け取る感覚』を少しずつ退化させてしまったのではないか、と。
以前こんなことを聞いたことがあります。
『私たちは、太陽や月がいつ、地平線のどこから昇るのか、本当はわかっている』
方位磁石や、日の出の時刻を調べなくても、身体がわかっているという感覚です。
それを聞いてから、私は部屋に時計とカレンダーを置かない暮らしをしています。
全く使わないというのではなく、視界にそれらを入れないようにしているだけ。時間や日付の確認、アラームやイマーはスマートフォンを使っています。
そんな暮らしも、今年で10年目。
太陽や天体の動き、そして自分の身体のサインも自然と意識に入るようになりました。
そんなふうに、感覚に意識が向いたからか。それとも、自分自身と深くつながっていたからか。
活けた花々から伝わってくるやさしい雰囲気、甘い香りの奥に、もっと細やかな”何か”が出ているのを感じました。
それらは、はっきりとは捉えられないけれど、確かに伝わってくる。
私たちは、無意識のうちに、そんな微細なサインを受け取っているのかもしれない。
ふと、そんなことを思ったのです。
発している”何か”を、ただ静かに受け取ってみる。
その感覚を大切に、自分の思考の引力でゆがませないように、香料の種類と分量を丁寧に書き留めていきました。
・梅雨の植物が放つ、甘さ、優しさ
・雨に濡れた葉の美しさ。雨の甘さ、青緑の気配
・金糸梅、花菖蒲、紫陽花、梔子(くしなし)の甘さ
・植物の奥にある、梅雨の雨と水の優しさ

香りを創作して、受け取ったもの
水は、何に宿されるかによって、その中に込められた情報の出方が変わってくるのではないか。
そんなことが浮かんできました。
植物の花や葉を通して放たれる”水の情報”は、季節によって変わる。
梅雨の頃は、私たちを包み込むように水の記憶が放出されていて、それは生命の起源、ルーツに繋がっているような気がします。
そんな感覚を、私はこの香りを創作して受け取りました。
あちこちに存在している水。その水が、あなたにどんなことを伝えてくるのか。
香りとともに、耳を澄ませるようなひとときを過ごしていただけたら嬉しいです。
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